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【小文吾と舩虫】
　犬田小文吾が悪女舩虫と出会い、石浜城に幽閉され、犬坂毛野の対牛楼の仇討につながる舞台。
　船虫の家は「阿佐谷」にあるとされるが、その場所についての記述は以下の二つ。

「鳥越山（とりこえやま）の根（ね）がたより東北（うしとら）へ三四町（みまちよまち）に赴（おもむ）き給へば阿佐谷（あさや）なり」 （第六輯第五十二囘）

「阿佐谷（あさや）は今（いま）の淺茅原（あさぢのはら）なるべし」 （第八輯上帙第八十二囘）

【湯島神社】
　犬阪毛野が関東管領夫人＝蟹目上（蟹目前）の飼猿を助けた場所。

「蟹目上（かなめのうへ）の轎子（のりもの）の、湯嶋（ゆしま）の社頭（しやとう）に來（き）にければ、社僧（しやそう）幾名（いくたり）か出迎（いでむか）へて、案内（しるべ）に立（たゝ）んとしつる折（をり）、蟹目上（かなめのうへ）の日属（ひごろ）より、寵愛（ちやうあい）深（ふか）き雛獼猴（こざる）あり。這（この）日（ひ）も轎子（のりもの）に容（いれ）させて、膝（ひざ）の上（うへ）に措（おか）れたる、這（この）獼猴（さる）猛可（にはか）に悶掻（もがき）騒（さわ）ぎて、走（はし）り出（いで）まく欲（ほり）せしかば…」 （第八輯下帙第八十八囘）

【政木狐の茶屋】
　犬江親兵衛に妙椿狸の退治法を教えた政木狐の茶屋。

「上野（うへの）の原（はら）まで來（き）にける程（ほど）に、と見（み）れば老（ふり）たる松（まつ）の下（もと）に、凳兒（せうぎ）兩三脚（ふたつみつ）並建（ならべたて）て、葭簀（よしず）搆（かこひ）の出茶屋（でちやや）ありけり。這（この）煎茶（せんちや）を鬻（ひさ）ぐ茶博士（ちやはかし）は、根岸（ねぎし）・金曽木（かなそぎ）頭（わたり）なる農戸（ひやくせう）の妻（つま）か母（はゝ）か、年齢（としのよはひ）六十（むそぢ）有餘（あまり）の老媼（うば）なるが、客（きやく）待（ま）つ程（ほど）の手技（てわざ）ならん」 （第九輯中帙第百十五囘）

茶屋の老媼「今日（けふ）前面岡（むかひのおか）なる申明亭（ふだのつぢ）にて、首（かうべ）を撃（うた）るゝ罪囚（つみびと）は、扇谷家（あふぎがやつけ）の御内（みうち）にて、二世（にせ）の忠臣（ちうしん）と聞（きこ）えたる、河鯉（かはこひ）佐太郎（すけたらう）孝嗣（たかつぐ）と喚做（よびなし）たる、廿歳計（はたちばかり）の後生（わかうど）なり（中略）件（くだん）の岡（おか）は不忍（しのばず）の池（いけ）の畔（ほとり）を左（ひだり）へ五六町（ちやう）ゆき給はゞ前面（むかひ）に連（つらな）りたる岡（おか）侍（はべ）り。這里（こゝ）を距（さ）ること遠（とほ）からず。七八町（ちやう）もや侍（はべ）らんかし」 （第九輯中帙第百十五囘）

【三観鼻】
　再び両国に戻った親兵衛が石亀次団太と出会う三観鼻（みつみのはな）。

「這（この）河邊（かはべ）に、三觀鼻（みつみのはな）と喚做（よびな）す出崎（でさき）あり（中略）右（みぎ）は富士（ふじ）、左（ひだり）は筑波（つくば）、前面（むかひ）は葛西（かさい）の曠野（あらの）まで杳渺（ようびやう）として障（さは）るものなく、只一覽（たゞひとめ）にて三箇（みつ）の眺望（ながめ）あり。因（より）て土人（ところのひと）字（あざな）して、三觀鼻（みつみのはな）と唱（とな）へたり」 （第九輯下帙上第百十七囘）