* 犬士と犬士、二人の関係を整理した内容。
* 組み合わせによって、親疎の差が意外とある。上図でも疎遠な関係をつなぐ線は薄い。

[ 犬士の関係性 ]

仁×義 ● 犬江親兵衞 ⇔ 犬川莊介
一言：……
解説：
　疎遠。

仁×禮 ● 犬江親兵衞 ⇔ 犬村大角
一言：……
解説：
　疎遠。

仁×智 ● 犬江親兵衞 ⇔ 犬阪毛野
一言：若い
解説：
　他の六犬士がほぼ同年令なのに対し、この二人だけが若い。
　また、甲斐指月院に足を踏み入れていないのもこの二犬士だけ、舩虫殺しの現場にいないのもこの二犬士だけである。ただ、あくまで他の六犬士との比較でこの二人が特異だという共通項があるのみで、本人同士にはほとんど縁がない。
　論語に「仁者樂山、智者樂水」とあるように、仁と智は対で語られることが多い。対関東管領戦の時、親兵衛が中山道経由で関東に戻ってくるのに対して、毛野は洲崎沖水戦の戦場にいる。これは馬琴の遊びかも。軍師毛野の作戦は丶大法師にいわせれば「みなごろし」だが、親兵衛はこの戦いで一人も殺していない。これも対として書かれたことなのだろうか？

仁×忠 ● 犬江親兵衞 ⇔ 犬山道節
一言：姨雪
解説：
　本人同士はほとんど縁がない。
　だが、犬江親兵衛が安房国富山の山中で伏姫神女に育てられた時、ともに暮らしていた姨雪世四郎、音音、単節、曳手といったメンバーはすべて犬山道節の元家臣たちである。特に姨雪世四郎は犬江親兵衛の従者として重要な役割を果たすことになる。

仁×信 ● 犬江親兵衞 ⇔ 犬飼現八
一言：……
解説：
　両者ともに小文吾との関係は深いのだが、本人同士となると何もない。

仁×孝 ● 犬江親兵衞 ⇔ 犬塚信乃
一言：主役
解説：
　八犬伝前半の主役・犬塚信乃と後半の主役・犬江親兵衛。
　犬塚信乃に似た親兵衛の父・山林房八は信乃の身代わりとなって死に、その徳により息子が犬士として再生。信乃は親兵衛に対して借りがある。
* 小谷野敦著「八犬伝綺想」によればこの二人の関係にはもっと深い意味があるという。

仁×悌 ● 犬江親兵衞 ⇔ 犬田小文吾
一言：叔父と甥
解説：
　犬江親兵衛の母・沼藺（ぬい）は犬田小文吾の妹。

義×禮 ● 犬川莊介 ⇔ 犬村大角
一言：……
解説：
　疎遠。

義×智 ● 犬川莊介 ⇔ 犬阪毛野
一言：落葉小篠
解説：
　「落葉・小篠」の「雪篠の名刀」セット。
　もともとは犬川荘助の父の所有物であったが、死後めぐりめぐって千葉家の重宝となり、犬阪毛野の父・粟飯原胤度謀殺の罠にこの刀は使われる。 　それと知らずに犬士同士が戦う場面----信濃国下諏訪で荘助と毛野がこの刀をめぐって戦う。両者とも自分のものだと信じているので譲らないが、小文吾の仲裁で事なきを得る。
* 落葉・小篠は「八犬伝の名刀」参照。
* 下諏訪での戦いは「犬士同士の戦闘」参照。

義×忠 ● 犬川莊介 ⇔ 犬山道節
一言：玉交換
解説：
　それと知らずに犬士同士が戦う場面----名刀「村雨」をめぐって盟友信乃のためにとりもどそうとする荘助と仇討ちの道具に使おうとする道節が争う。その時に偶然にもお互いの玉が入れかわる。火定跡の残り火を利用して道節は火遁の術で逃げる。
　別の犬士の玉を持つはめになるのはこの二人だけ。
　それと知らずに犬士同士が戦う場面----夜の荒芽山の麓。暗くて相手が見えず、お互いに「くせもの」と信じて戦う。これまた刀が触れ合って飛んだ火花を利用して道節が火遁の術で逃げる。
　荘助は犬士同士の戦いが多い。
　この二人は荒芽山の難の後、甲斐国指月院で丶大法師に会うまで共に行動する。また後に官名をもらった時に官名を名乗らなかったのもこの二人。
* 二人の戦いは「犬士同士の戦闘」参照。

義×信 ● 犬川莊介 ⇔ 犬飼現八
一言：足利家
解説：
　二人とも、足利家の家臣の息子。犬川荘助が堀越公方・足利政知の家臣の息子。犬飼現八が古河（許我）公方・足利成氏の家臣の息子。庚申塚刑場襲撃から荒芽山まで行動を共にする以外、特に接点はない。

義×孝 ● 犬川莊介 ⇔ 犬塚信乃
一言：大塚
解説：
　最初に登場する犬士・犬塚信乃と二番目に登場する犬士・犬川荘助が出会って義兄弟の契を結ぶのが武蔵国大塚。

義×悌 ● 犬川莊介 ⇔ 犬田小文吾
一言：越後
解説：
　山賊に襲われた石亀屋滞在中の小文吾を荘助が助ける。後にともに片貝城で捕らわれる難にあう。
　後の対関東管領戦で、ともに行徳口の防禦使となる。荘助が正使で小文吾が副使。
* 対関東管領戦の詳細は「行徳口の陸戦図」参照。

禮×智 ● 犬村大角 ⇔ 犬阪毛野
一言：頭脳派
解説：
　荒芽山（親兵衛を除く五犬士会同）以後に登場する二犬士はともに頭脳の人。
　毛野は知性の人、大角は知識の人。あるいは毛野は天才型で、大角は秀才型といったイメージ。
　後の対関東管領戦で、毛野は里見全軍の戦略を担当する軍師、大角は敵地工作をするスパイとなる。

禮×忠 ● 犬村大角 ⇔ 犬山道節
一言：……
解説：
　疎遠。

禮×信 ● 犬村大角 ⇔ 犬飼現八
一言：庚申山
解説：
　犬村大角が初登場する下野国庚申山の化猫物語の主役たち。その後、八犬士が揃うまで行動を共にする。

禮×孝 ● 犬村大角 ⇔ 犬塚信乃
一言：妻（許嫁）あり
解説：
　女性との縁があったのはこの二人だけ。
　大角は妻・雛衣（ひなきぬ）。信乃は許嫁・浜路。後に里見家の姫と結婚するが、その名もそれぞれ鄙木（ひなき）姫と浜路姫。しかも鄙木姫と浜路姫は同母姉妹である。

禮×悌 ● 犬村大角 ⇔ 犬田小文吾
一言：舩虫
解説：
　悪女舩虫と縁が深い二人。
　舩虫登場順に書く。① 小文吾が武蔵で舩虫に殺されかかる。➁ 舩虫、大角の義母となる。③ 小文吾が再び舩虫に殺されかかる。

智×忠 ● 犬阪毛野 ⇔ 犬山道節
一言：仇討
解説：
　ともに名門の血筋、家老の子に生まれ、ともに父親の仇を狙う。
　毛野は「千葉家」の血筋、道節は「豊島家」の血筋。今も東京都と千葉県に名を残すのだから名門である。
　後の対関東管領戦ではともに洲崎沖水戦にのぞむ。
* 対関東管領戦の詳細は「洲崎沖の水戦図」参照。

智×信 ● 犬阪毛野 ⇔ 犬飼現八
一言：……
解説：
　疎遠。

智×孝 ● 犬阪毛野 ⇔ 犬塚信乃
一言：女装
解説：
　女装する八犬士。
　けの、しの、と女名のようでありながら実は国名。毛野は上野・下野の両毛地方。信乃は父母が出会った信濃国からの命名。
* なぜこの二犬士が女装なのかについては、高田衛著「八犬伝の世界」に詳しい。

智×悌 ● 犬阪毛野 ⇔ 犬田小文吾
一言：対牛楼
解説：
　毛野が初登場する対牛楼の仇討の主役たち。
　女装の毛野は小文吾をくどき小文吾もその気になってしまう。けっこう変な関係である。

忠×信 ● 犬山道節 ⇔ 犬飼現八
一言：武断派
解説：
　戦いにおいて割と乱暴な方法を主張し、毛野や信乃など頭脳派系犬士から諭されるタイプ。闇夜で気づかずに犬士同士が戦う場面----千住の船の上で現八を盗賊と勘違いした道節らが戦う。しかし、その場面以外ではほとんど縁がない。
* 二人の戦いは「犬士同士の戦闘」参照。

忠×孝 ● 犬山道節 ⇔ 犬塚信乃
一言：浜路
解説：
　道節は浜路の実の兄。信乃は浜路の許嫁。
　信乃の保有する刀「村雨」を他犬士で唯一所持したのが道節。
　甲斐国で難にあった信乃を助けたのは道節。
　乱暴な意見をはく道節をなだめるのはいつも信乃。
* 村雨は「八犬伝の名刀」参照。

忠×悌 ● 犬山道節 ⇔ 犬田小文吾
一言：……
解説：
　荒芽山の五犬士会同の時にともにいる。それだけだ。

信×孝 ● 犬飼現八 ⇔ 犬塚信乃
一言：芳流閣
解説：
　それと知らずに犬士同士が戦う場面----芳流閣の屋根上で信乃と現八(当時は見八)が戦う。有名な場面。また現八の実の父は信乃の隣人であった。
　後の対関東管領戦で、ともに国府台口の防禦使となる。信乃が正使で現八が副使。
* 芳流閣の戦いは「犬士同士の戦闘」参照。
* 対関東管領戦の詳細は「国府台の陸戦図」参照。

信×悌 ● 犬飼現八 ⇔ 犬田小文吾
一言：乳兄弟
解説：
　現八の養父犬飼見兵衛の行徳での定宿は小文吾の父が経営する古那屋。そんな関係で、小文吾の母が現八に乳を与えた。

孝×悌 ● 犬塚信乃 ⇔ 犬田小文吾
一言：匿う
解説：
　行徳に流れ着いたお尋ね者の信乃を、宿屋古那屋で匿う。小文吾は古那屋の息子。