[ 八犬伝邪読 - 22 ]

● 酒呑童子
　酒呑童子（しゅてんどうじ）といえば、有名な鬼の親玉。
　八犬伝には、彼に由来する人物がいる。越後の賊・童子〓子酒顚二だ。
* 〓の文字は「 𥴩 」だが、環境（＝Unicodeのどのバージョンまで対応しているか）によっては表示不可。表示されてもフォントの対応が不十分で、この文字だけが違うフォントになったりもする。で、表示されない環境を考慮して、あえて〓表記にしている。

「這強盗（このごうたう）は、童子〓子酒顚二（どうじかうししゆてんじ）と喚做（よびな）したる、一所不住（いつしよふぢゆう）の山豪（やまだち）なり（中略）ある時（とき）は博徒（ばくと）を聚合（つどへ）て、袁彦道（ゑんげんどう）の技（わざ）に耽（ふけ）り、錢（ぜに）なき折（をり）は夜掙（よかせぎ）をして、山（やま）にも立（たち）、人（ひと）の家（いへ）にも、竊入（しのびいり）つゝ梁上（りやうじよう）の、君子（くんし）となる夜（よ）の多（おほ）かりしに、舩虫（ふなむし）を妻（つま）にせしより…」 （第八輯上帙 第七十五囘）

「近江（あふみ）の膽吹山（いぶきやま）なる、強人（ぬすびと）の頭領（とうりやう）にて、但鳥跖六業因（たゞとりせきろくなりより）と喚（よば）れたる、殘忍鴟梟（ざんにんしけう）の暴雄（あらびを）なり（中略）孕（はらめ）る婦（をんな）を奪拿（うばひと）らし、生（いき）ながらその腹（はら）を裂（さか）して、胎内（はらごもり）の子（こ）を蒸（むし）て啖（くら）ひ、炙（あぶ）らしもして酒菜（さかな）にせしに（中略）這事（このこと）竟（つひ）に世（よ）に聞（きこ）えて、「膽吹山（いぶきやま）の鬼跖六（おにせきろく）」とて、人々（ひとびと）他（かれ）を怕（おそ）るゝこと、疫鬼（えやみのかみ）に異（こと）ならず」 （第九輯上套 第九十七囘）

● 源頼光の四天王
　一方で、酒呑童子を倒した、源頼光とその四天王（渡辺綱・坂田金時・碓井貞光・卜部季武）に由来する人物もいる。
　馬加大記の家来、渡部綱平・坂田金平太・臼井貞九郎・卜部季六だ。

「馬加（まくはり）が股肱（こゝう）の若黨（わかたう）、渡部綱平（わたなべつなへい）、坂田金平太（さかたのきんへいた）、臼井貞九郎（うすゐのさだくらう）、卜部季六（うらべのすゑろく）は、齊一（ひとしく）「阿（あつ）」と應（いらへ）して、進（すゝ）み入（いり）て額（ぬか）をつき、その席末（せきまつ）に居並（ゐなら）びて（中略）小文吾（こぶんご）は、いと慇懃（いんぎん）に禮（いや）を返（かへ）して「各位（おのおのがた）は源頼光（げんらいくわう）の、四天王（してんわう）にも劣（おと）らざる、勇士（ゆうし）とは誰（たれ）も知（し）るべき、姓名（せいめい）といひ骨相（こつがら）といひ、いと憑（たのも）しく候。」といはれて四人（よたり）は羞（はぢ）たる色（いろ）なく、「賢察（けんさつ）の如（ごと）く、不幸（ふこう）にして、腕（かひな）を砍（き）るべき鬼女（きぢよ）に得（え）あはず。土蜘蛛（つちぐも）なンどの變化（へんげ）も出（いで）ず。野飼（のかひ）の牛（うし）にこころを付（つく）れど、鬼童丸（きどうまる）も躱（かく）れをらず。いく野（の）の道（みち）の遠（とほ）ければ、大江山路（おほえやまぢ）を踏（ふみ）わきて、酒顚童子（しゆてんどうじ）が舊迹（きうせき）だも、見ることを得（え）ざりしは、殘念至極（ざんねんしごく）に候。」と續語爲句（まはりせりふ）の似非的宏言（ゑせくわうげん）に、小文吾（こぶんご）は堪（たへ）がたき、笑（わらひ）を袖（そで）に包（つゝみ）あへず、うち咳（しはぶ）きてぞ紛（まぎら）しける」 （第六輯 第五十六囘）

● 闇の毛野
　つまり、毛野は鬼。
　それを暗に示すために、懐胎三年という謎の出生と、敵の家臣に頼光四天王もどきの人物をわざと配したように思える。

　ここで、以前に書いた「闇の犬士・毛野」の内容とつながった。
　光と闇の両極。犬江親兵衛と犬阪毛野。
　前述したとおり、親兵衛は鬼退治。毛野は鬼。まさに両極。
　対関東管領戦において、親兵衛は陸戦で、伏姫神薬を用いて敵兵を蘇生させた。一方、毛野が指揮する海戦は皆殺し。火に焼いて海に沈めてしまったので、仮に伏姫神薬があったとしても蘇生不可。これも両極。

「子曰、知者樂水、仁者樂山、知者動、仁者靜、知者樂、仁者壽」 （論語 第六雍也篇）